絽ざしは教科書やテキスト、文献がとても少ないです。
その割に細かいルールが沢山あるので、すそ野を広げる方法が空回りしてしまいます。
- 本来の絽ざし(絽刺し)
- 去年、人生に先輩からいただいたアドバイス
- 絽ざしの譲れないルール
- でも、楽しんでくれる人が増えてほしいという気持ち
本来の絽ざし(絽刺し)
脈々と受け継がれている絽ざし(絽刺し)は絹地に絹糸を使っています。
高貴な方達の手すさびとして嗜まれていた歴史があるので、庶民の趣味になるには時間がとてもかかりました。
ハッキリ調べていませんが、天平の昔から嗜まれていたの公家文化で、庶民が楽しめるようになったのは19世紀ぐらいではないかと思います。
絹の絽の生地に絹糸で刺繍をするので、絹を身にまとえる方達の中で文化として成熟してきたのだと想像しています。
ただ、「身分」というのは今の日本ではなかなか遠い言葉になったような気がします。
一億総中流とかみんな平等ということはバブル以前からよく耳にしました。
元々「身分」を持っている人達が囲い込んでいた「高貴な趣味」という少し意地悪な言い方もできてしまいます。
知っている人は子供のころから知っているし、知らない人は一生しることのない日本にある小さな文化になっていると思っています。
絽ざしを約10年以上続けてきて、危機感を強く持ってしまうのは、今まで嗜まれてきた方達は「今のままで良いと思っているのではないか?」と疑問に思っているからです。
去年、人生の先輩からいただいたアドバイス
昨年、「白菊」の袋帯を絽ざしで制作しました。
袋帯に白菊の絽ざしを縫い留めてもらうのですが、縫い留めていただくにも高度な技術を持つ職人さんにお願いしなければなりませんでした。
絽ざしそのものも、絽の生地に糸を巻き付けながら刺繍をするので、表と同じ量の糸を使います。
ちょっとした軽口でしたが、人生の先輩から「あんなにびっしりと絽ざしをしていたらまるで千人針見たいだから、もう少しなんとかできないのかなぁ。」とのことでした。
おっしゃることは理解できました。
考えてみますと言いましたが、この一年、考えてみても「もう少し何とかなる。」というところまでは考えられませんでした。
譲れないルール
黒川先生とお話していて、譲れないルールがほぼ一致していることが分かりました。
絹の絽の生地に絹糸で絽ざしをすること。
垂直に刺しながら曲線をだすこと。
絽の生地に絹糸を巻き付けて刺繍すること。
黒川先生が試してみて、やっぱり違うと思ったことも教えていただきました。
着物にも絽の着物があります。
それは絽ざしに使う生地よりも絽の目が大きくて、出来上がった作品が大味になってしまうとのことでした。
他にも、絽ざしのルールに則って刺したからといって、絹糸以外では絹の光沢が出ません。
木綿や麻、化繊100%では絹の光沢は望めません。
現在は絽ざしで小物も作られていますが、決定的に違うのは、身分の高い人の衣類として用いられてきたか、作業着の装飾や生地が弱った部分を補強するために発展してきたかの差があります。
日本三大刺し子の場合、以前はお洗濯等も可能だったと思います。
今は帯なども制作されているのですべてが自宅でメンテナンス可能ではないと思います。
日本には「刺し子」というとても生活に根差した刺繍もあります。
日本三大刺し子というのがあるそうです。
「刺し子」と「こぎん刺し」が混在して知られているようですが、明確に違いはあるようですが、会話の中では「刺し子」でも「こぎん刺し」でも、イメージされるものは同じ物のようです。
私も同じものをイメージします。(苦笑)
・・・と思って、違いを調べ始めたら泥沼でした。深みにはまる前に出てきましたが、「刺し子」と「こぎん」は材料はとても似ているものの、用途は違う印象です。
刺し子は「刺し子布巾」というくらい柔らかい物が検索でヒットします。
こぎんは使われている土台の麻布が見た感じではとても地厚で堅牢度がたかそうです。
布巾にするよりもポーチやコースターなど生地が厚めの物が多かったです。
帯がつくられているのも「こぎん」のようです。
絽ざしにはない力強さを感じます。
・庄内刺し子
山形県庄内地方で生まれた刺し子。北前船の開通によって綿の古着が流入し、その裂(きれ)を用いて、足袋などに刺し子を施したことで生まれた。米刺しや紫陽花刺しなどの模様が特徴である。
色味が綺麗だったのでこの動画を選びました。
初心者の私にはもっと簡単な図案が良いと思っています。
図案まで書いてあるキットがあるんですね。これくらい親切なキットなら間違いがないかもしれません。
一度も作ったことのない私には向いている気がします。
・津軽こぎん刺し
青森県津軽地方で生まれた刺し子。麻布、綿糸が用いられ、200以上の幾何学模様が施される。
今、活躍されている方のようです。
説明されていることは理解できますが、手がちゃんと動くかはやってみないと分かりません。
・南部菱刺し
青森県南部地方で生まれた刺し子。目の粗い麻布の織り糸を使用し、菱模様を施す。
とても詳しい説明サイトがありました。
「うららかな菱日和」
既に終了した作品展ですが、菱刺しの短い説明があります。
色使いがカラフルでとっつきやすいですが、技法は詳しく語られていません。少し残念です。
絽ざしと違うところは衣類などの修繕を目的とするところから、独自の文様が発展したところではないかと思います。
もちろん現在は、修繕から離れて作品として作られていますが、昔は花嫁修業の一つ、津軽地方の女性の必須スキルだったようです。
違いをあれこれみるよりも一度、刺し子もこぎんも小さな物を一つくらい作ってみると、大変さ、楽しさ、絽ざしとの違いがわかって、私の絽ざしへの気持ちや取り組み方にも良い影響があるような気がします。
でも、楽しんでくれる人が増えてほしいという気持ち
絽ざしと日本三大刺し子の違いを簡単に書きましたが、取り扱いの違いや細かさの違い、素材の違いなど違いは沢山あります。
共通点は「古典文様」があるお裁縫と言う大きなくくりになるかもしれません。
どちらかが残り続けるかというのではなく、どちらも残り続けてほしいと思っています。
使われている素材は天然繊維で共通です。
もしかしたらこれから絽ざしには化繊が使われ「工業製品」という分野ができるかもしれません。
でも、やっぱり「本当の絽ざし」は絹をつかってつくられたものを継続していきたいと思っています。
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冬の間に体験として、刺し子やこぎんをやってみようと思います。